みなさんは歯科技工士という職業をご存じでしょうか?
歯科技工士とは、歯科医師の指示のもと、入れ歯や詰め物などの技工物の作成・加工を行う国家資格の職業です。今回は、歯科医療において重要な役割を担う歯科技工士の仕事内容やなり方、やりがい、年収について解説していきます。
歯科技工士とは?
歯科技工士とは、歯科医師の指示のもと、入れ歯や被せ物、詰め物、矯正装置などの作成や加工を行う職業です。一般の人にはあまり馴染みのない職業かもしれませんが、歯科医療を支える重要な役割を担っています。
2018年時点では全国で34,468人の歯科技工士が活躍しており、多くの歯科技工士は歯科技工所や歯科医院に勤務していますが、実力を積んで独立開業する人も少なくありません。
歯科技工士には、歯の色や形を把握する繊細な審美感覚や高度な加工技術に加え、常に新しい技術や知識を習得する向上心が求められます。
歯科技工士と歯科衛生士の違いは?
歯科技工士は歯科技工士法、歯科衛生士は歯科衛生士法に基づく国家資格です。どちらも歯科医師の指示のもと歯科医療を支える専門職ですが、その仕事内容には次のような違いがあります。
- 歯科技工士:歯科技工所や歯科医院などで、入れ歯や詰め物、矯正装置などの作成・加工を行う。
- 歯科衛生士:歯科医院などで、診療補助、予防処置、保健指導を行う。
患者さんと直接関わる歯科衛生士は清潔感やコミュニケーション能力、細やかな対応能力が重視されますが、歯科技工士には高度な技工技術や集中力、立体把握能力などが求められます。
歯科技工士の資格を取るには
歯科技工士として働くためには、毎年2月に行われる国家試験に合格し歯科技工士名簿に登録されなければなりません。歯科技工士になるまでのルートと国家試験について詳しく説明していきます。
歯科技工士になるまでのルート
歯科技工士国家試験を受けるためには、高校卒業後に歯科技工士教育機関で2年以上修学し、必要な知識と技能を身に付けなければなりません。国家試験合格後は、厚生労働大臣指定の登録機関に申請し歯科技工士名簿に登録されることで晴れて歯科技工士になることができます。
歯科技工士教育機関には、2年または3年制の専門学校、4年制大学、2年制短大があり、夜間部を併設している学校もあります。
公益社団法人日本歯科技工士会のホームページには全国53校の教育機関が掲載されているので、詳細はこちらをチェックしましょう。
公益社団法人日本歯科技工士会http://sp.nichigi.or.jp/about_shikagikoshi/gakkouitiran.html
歯科技工士国家試験について
<歯科技工士国家試験の概要(2020年2月時点の情報)>
試験日程 | 毎年2月 |
試験会場 | 北海道、宮城県、東京都、大阪府、福岡県 |
受験料 | 30,000円 |
試験科目 | 1. ①学説試験:歯科理工学、歯の解剖学、顎口腔機能学、有床義歯技工学、歯冠修復技工学、矯正歯科技工学、小児歯科技工学、関係法規 2. ②実地試験:歯科技工実技 |
合格基準 | 3. ①学説試験:60%以上の正答率 ②実地試験:60%以上の正答率 |
合格率 | おおむね95%以上 |
歯科技工士国家試験には学説問題と実地問題があり、両方とも60%以上の正答率で合格となります。2016年度以降の合格率は以下のようになっています。
おおむね95%以上と高い合格率となっているため、国家資格の中では比較的優しい試験と言えるでしょう。
歯科技工士が作成するもの
歯科医療に必要なものを作る歯科技工士ですが、具体的には以下のような技工物の作成や加工を行います。
・クラウン(歯の被せ物)
虫歯などで大きく壊れた歯を修復するためのもの。一般的に「銀歯」と言われる。
・ブリッジ
歯が1~2本無くなったときに、両脇の歯を支えとして橋のようにつなげるもの。
・総義歯(入れ歯)
床(しょう)と呼ばれるピンク色の土台に人工歯が並んでいる入れ歯。歯が1本もない場合に使われる。
・局部義歯(部分入れ歯)
部分的に歯を失った場合に、必要な機能を補填するための入れ歯。
・インプラント
虫歯や歯周病などにより歯がなくなった場合に顎の骨に植える人工歯根。
・矯正装置
歯並びや噛み合わせが悪いときに、一定の期間力をかけて治していくための装置。取り外し式と固定式がある。
・マウスガード
スポーツなどをするときに、口腔内のケガや歯のすり減りを防止するもので、マウスプロテクターとも呼ばれる。
・エピテーゼ
生まれつき、または病気やケガなどによって失われた顔面や体の形態・機能の回復を図るための人工物。
歯科技工士の仕事内容
主に入れ歯や詰め物などの作成・加工を行う歯科技工士ですが、その仕事内容は働く場所によって少しずつ異なります。ここでは、職場別に仕事内容を説明していきます。
歯科技工所
歯科技工士の就職先として最もメジャーな歯科技工所では、歯科医院や病院からの発注を受け、入れ歯や詰め物、矯正装置などの作成から納品までを行います。小規模な技工所が多く、働きながら専門知識や経営ノウハウを学んで独立開業する人も少なくありません。
歯科医院・病院
歯科医院では、歯科医師からの指示を受け随時相談をしながら必要な技工物を作成します。患者さんの口腔内を観察する機会もあるため、自分が作成したものの良し悪しをその場で知ることができます。
また、歯科を設置している総合病院では、一般的な歯科治療に加え口腔や顎などさまざまな疾患を対象とし幅広い症例に関わるため、作成する技工物も多岐に渡ります。
歯科器材・材料関連会社
歯科技工士としての専門知識や技術を活かして、歯科医療に関わる器材の開発や材料の研究などを行います。商品を普及させるため、メーカー専任のインストラクターとして展示会やセミナーなどでデモンストレーションを行うこともあります。
歯科技工士教育機関
歯科技工士になるための教育機関では、歯科技工士教育の充実や教育資材の研究などを行います。
歯科技工士の就職先
厚生労働省の衛生行政報告例によると、2016年時点の歯科技工士の就業割合は以下のようになっています。
<歯科技工士の就職先>
就職先 | 割合(%) |
歯科技工所 | 72.1 |
病院・診療所 | 26.5 |
その他 | 1.4 |
引用:平成28年衛生行政報告例 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/16/
最も多いのが歯科技工所で72.1%、次いで病院・診療所が26.5%となっており、その他には歯科技工所や事業所が含まれます。
歯科技工所は全国に21,000カ所以上(2018年時点)ありますが、その大半が歯科技工士2人以下の小規模技工所。年間売上10億円以上の大手は全国に12社あり、数十~数百人の歯科技工士が働いています。
歯科技工士のやりがい
歯科技工士は、高度な知識と技工技術、審美感覚を必要とする専門性の高い職業です。多くの仕事をこなさなければならず忙しい時期が多いと言われていますが、とても奥が深くやりがいも大きな仕事です。
ものづくりを仕事にできる
患者さんひとりひとりに合う歯科技工物をつくるためには、繊細な加工技術や高度な知識、審美感覚などさまざまなスキルが必要とされます。専門的なスキルを磨きながらそれを仕事にできることは、ものづくりが好きな人にとって大きな魅力と言えるでしょう。
専門性の高い業務独占資格である
歯科技工士は業務独占資格であるため、歯科医師を除いて有資格者でなければ歯科技工物を作ることはできません。また、咀嚼や嚥下、発音など人が生きる上で必要不可欠な歯をサポートする仕事なので、社会貢献度も大きな仕事です。高い専門知識や技術を活かして人の健康や幸福を支えられるため、誇りをもって働くことができるでしょう。
実績を積んで独立開業を目指せる
歯科技工士は一人でも独立開業ができ、公益社団法人日本歯科技工士会の調査によると約40%が自営者となっています。独立開業にはもちろんリスクもありますが、勤務歯科技工士よりも高い年収が期待でき、自分の裁量で仕事をすることができます。実績を積めば独立開業ができる点は、歯科技工士として働くうえでの大きなモチベーションとなるでしょう。
歯科技工士の平均年収
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2016年時点の歯科技工士の平均年収は以下のようになっています。
- 平均年収:434.7万円
- 平均年齢:42.7歳
- 平均月収:32.7万円
- 平均年間賞与:42.3万円
参考:厚生労働省 労働統計年報
また、公益社団法人日本歯科技工士会の「2018科技工士実態調査報告書」によると、歯科技工士の年収の分布は以下のようになっています。
全体で見ると200~400万円が35%以上を占めていますが、自営者の平均年収は35%以上が500万円以上、1000万円以上が約10%と勤務者よりも高くなっています。
歯科技工士全体の平均年収は日本の平均年収と大差ありませんが、独立開業することによって高収入を得られる可能性が高くなるでしょう。
歯科技工士の将来性
コンピュータ支援によって設計・切削加工する「CAD/CAMシステム」が導入されるなど大きな変革期を迎えている昨今では、歯科技工士の重要性について注目が集まる一方でその労働環境は厳しいものとなっています。
- 長時間労働
- 離職率の上昇
- 若手歯科技工士数の減少
- 養成機関減の減少
これらの原因としては、就職先としてメジャーな歯科技工所のほとんどが小規模技工所であるため、給与や休暇、福利厚生などの制度が整っていない場合が多いことが挙げられます。
歯科技工士の減少や離職について、厚生労働省は「歯科技工士の養成・確保に関する検討会」を行い、歯科技工士の労働環境の改善を図っています。
現状では国家資格のわりに恵まれている環境ではない歯科技工士ですが、今後労働環境の改善が進むことによって、より働きやすい職業となっていく可能性もあるでしょう。
歯科技工士は労働環境の改善が期待される国家資格
歯科技工士とは、歯科医師の指示のもと入れ歯や詰め物などを作成・加工する、歯科医療において重要な役割を担う国家資格の職業です。
現状では歯科技工士の待遇は恵まれているとは言えませんが、厚生労働省では歯科技工士の養成や確保に関する活動を行っており、今後労働環境が改善していくことが期待されています。
この記事を読んで歯科技工士の仕事に興味を持った人は、近くの養成機関をチェックしてみましょう!